いつもの爺様の話はちょっと休憩。
久々に違う話を書いてみます。



奧能登のY田村とS市の境辺りの人も滅多に行かないような
車も通れないような細い山道を徒歩で数時間登ると
その先に一件の小さな温泉宿がある。

Y田村や地元の人達ですら、この宿の事は知る人が殆ど
いないのであるが、この一年で最も寒い時期に泊まるに
は数年前から予約が必要だと噂されている。
下手すると順番待ちで10年以上は待たされる事もあるという。
客の目当てはこの時期に宿で出される料理・・・


”タタキリスの味噌煮込み鍋”である。


その味は一度味わうと生涯忘れられない・・・
たちまちその味の虜になってしまうとの話だ。

しかし”タタキリス”は非常に貴重な動物であり
捕れるのはこの一年で一番雪の積もるこの時期のみ。
しかも年にほんの数匹捕獲出来ればよい方で
全く捕獲出来ない年もあるという。
捕獲方法などは宿の主人意外は知らないと言われている。

一説によると夜中にある場所に日本酒に漬け込んだ油揚げ
を蒔いておくのだという。
そして翌朝に油揚げを食べてベロベロに酔って寝込んでいる
タタキリスを捕獲するのだ。

他にもこの時期は木の枝にぶら下がって寝ているから
寝ている下で”かしわで”を打つと木から落ちてくるという説もある。

姿はタヌキのようでもあるし猿の姿に近いといもいう。
相当すばっしこい生き物なのは確かなようだ。

しかしこの時期はどのような常連客でも宿の調理場へ入る
事を厳しく禁止されていてタタキリスがどのような姿をし
ているのかは全くの謎に包まれている。

どんなに頼み込んでも宿の主人がタタキリスの姿を見せて
くれた事はない・・という。
調理法も調味料も秘伝中の秘伝らしい。


僕は今度の連休を利用してその宿へ泊まりに行く。

父は宿に予約を入れたままあの世へ行ってしまった。
宿の主人はその事を知らずに僕の家へ連絡をくれたというわけである。
僕は幼い頃父からよくタタキリスの話を聞かされていた。
しかしこの話を僕は父の冗談だと思っていたのだ。


世にはいくらネットで調べても表に出ない不思議な話がある。
グーグル先生といえども当然知らないことだってあるのだ。