今回のテーマは女の子のお部屋編です。


…同じ一人暮らしだというのに、どうしてこうも違うのだろう?と僕
は案内されたその部屋でため息が出そうになった。


 綺麗に整えられた大きなベットにソファー。
 おしゃれな小物のはいった棚。きちんと整理されたCDにコンポ。
 ちゃんと豆から入れて貰ったいい香りのする美味しいコーヒー。
 清潔なコーヒーカップ。美術関係の写真集や本。
 そしてソファーに座って触れるように置いてある先日のvaio君。
 vaio君の色はホワイトをチョイスしたみたいだ。


思い出されるのは先日のSの部屋である。

 いつ干したのかすら不明な万年床。
 自分で掃除したことすらない悪臭のする台所。
 ホコリが積もりすぎて真っ白になっている棚。
 適当に積み上げてあるCDに洗濯物、パチンコの雑誌。
 冷蔵庫には賞味期限がいつまでかすら不明の卵や調味料。
 いつからそこに放置してあるのかわからない汚れた食器。
 なぜか部屋に鎮座している動かすと大きな音の出る
 近所迷惑 なスロットの台。

家賃が安いという理由で築軽く50年以上は経っているであろうと思わ
れる借家にその子は住んでいる。当然Sのアパートより遙かに古い建物
である。壁などは古い木造建築故にボロボロなのであるがオサレな布
を張ったりしてそれを感じさせない工夫を凝らしている。

その真っ白なvaio君はソファーに座った状態でラクにキーボードに手
が届く位置においてあり、これを置くためにわざわざベットの位置な
どを模様替えしたらしい。確かに以前遊びに来たときとは家具などの
配置が全く違う。

入れて貰ったコーヒーを飲みながらvaioの設定開始。
彼女と一緒にソファーに座って説明しながら動かして貰う。
このパソコンはあくまでもその子のvaio君なのだから。

しかし残念ながら液晶のドット欠けが一カ所あってその点が少し不満
ならしい。しかしこればっかりは運が悪かったと思わなくてはいけな
い。むしろ一カ所だけなら幸運なのではないか…とか思う。

「こっちクリックして、んで…このCD入れて」
「ここ?」「そうそう。」

こんな感じで設定は意外と早く終わったので、2人でネットで遊ぶ。
僕が薦めてアクセスしたしたpya!で猫がドジ踏む動画を見つけて大喜
びするその子。こうしてこれ以上ない至福のひとときを過ごす。

しかし正直なところ落ち着かない。非常に落ち着かない。
部屋全体が醸し出す女の子のオーラのようなものに圧倒される。
そういう意味でもSの汚い部屋はやはり安心感があるのだ。

15センチと離れていない距離に坐ってパソコンを見つめているその子を
横目で見ながら思う。
ずいぶん前に彼女がいた時ってこんな感じだったっけか…。
でもこの子は彼女ではなくて友達なんだよな…。
この15センチが僕には月よりも遠い距離に感じられる。


ソファーで横に並んで座る二人
彼女「えと・・・」
僕「どうかした?」
彼女「もうちょっとそっちにいってもいい?キーボード押しにくくて」
僕「ん、もちろんいいよ。」
彼女が僕の真横にそっと座る
僕「大文字と小文字の入れ替えはこれとこれを押したら…」
キーボードを押して説明する僕。
彼女「ろあんさんの指って長いですね。」
そっと僕の手をとって見つめる彼女。
僕「そうかな?」
彼女「ピアノとか習ってたの?」
僕「習ってないですよ。でもピアノ引けるって素敵ですよね。」
彼女「楽器の出来る人って格好いいよね」

そして僕は彼女の手をそっと握り返す。
そのまましばらく沈黙がつづく。
そして何も言わずじっと僕のの目をみつめる彼女。
僕もドキドキしながら彼女を見つめ返す。

「キス…してもいいかな?」「うん…。」

体が震えてしまいそうなほど心臓がドキドキする。
彼女の体を抱き寄せてそっと唇を重ねる。


もちろんこんなのは妄想で、実際には何事もなく時間だけが過ぎてい
き、僕もタイミングをみてこの部屋を後にした。

”JTBはエルメスの家行きの切符は売ってくれない。”

とかいうのは電車男スレの名言だが今なら分かるような気がする。
家へ招待されただけでも素晴らしい出来事だったのかもしれない。